コンビニ人間

こんにちは。【タオルはまかせたろ.com】タオルソムリエの寺田です。

カードをかがげると赤の矢印が誘導され花札サイズのチケットがゲートから出てくる。

絶えず改札には遅延を想像して30分前に入る私は電光掲示板ののぞみ号の車種を確認しながら時刻通りに動いていることに安堵した。

ホームにはそれぞれの音が人の数だけ流れていた。
旅立つ気持ちをワクワクする子供連れの家族。
カップルで訪れた欧米の背の高い白人。

大きなスーツケースを両腕で引っ張りながら上から下まで黒で統一した団体で歩く中国人。
日経新聞とカップコーヒーを買い込み移動を余儀なくされたサラリーマン。

陳列するお土産棚も駅弁も綺麗に並びトイレには長蛇の列が続いていた。

エスカレーターでホームに上がると日差しに照らされ京都タワーが賑やかだ。

軽やかなメロディとともにホームに滑り込むなだらかなシルエットののぞみ号。

防止扉が緩やかに開くとそれぞれの座席に流れ込む。

私はいつも窓側の二列席のE席に決めている。

出来るだけ中央寄りの10番あたりが車両間の扉の解放を気にしないで落ち着く位置だ。
そして小田原までの間は静かに読書を楽しむのだ。
天気のいい日は富士山を眺める。
ほとんど雲がかかる富士山だが晴天の時は手を合わせてしまうほど見事な絶景で1日を祝福してくれているよに思えてならない。
前と後ろからシャッターを切る音が聞こえるから皆さん同じ気持ちで眺めていることであろう。

車内販売では決まってホットコーヒーを買う。
飲みたくなくても買うことが多い。朝の始動を意識するために売り子さんと接客を受けておくことを心がける。

リクライニングを軽く倒して老眼鏡をかける。
いま通ってきた滋賀県の流景を少し眺めた後、一呼吸おく。
活字が車内アナウンスの声を朧気に耳馴染みにしながら車窓から本の世界に入り込む。

非日常の東京出張だった数年前に比べて今年に入って月に一度のペースで訪れる。
周りの乗客は毎回違うけれどこの期間に日常の新幹線のルーチン時間を作り上げてしまった。

人は同じ慣習で生きるのが得意な人とそうでない人がいると聞くことがあるが私はそうは思わない。

目が覚めて行う行動の中に起きる内容が異なっても外的な要素が違うだけで自らの日常は自分の向き合う力の差だと改めて思う。

想像された世界が得意な人もいれば日々に不満を募らせ人に批判を向けて探している人もいる。
少しの幸せを見つける得意な人もいる。
目の前に与えられる環境は実はそんなに大差が無く幸せ感度の振り幅の違いであると車内の中で思いながらこの記事を書き始めた。

2時間強の同じ室内で向かう先は同じでもそれぞれの人生は異なる。その先の時間なんてこの瞬間には意味がない。
与えられたこの空間と時間がそれぞれの居場所。
電車は同じ時刻に同じ場所を同じ線路で同じアナウンスが流れているのである。
誰かが入ればトイレの使用灯がともる。
電光掲示板にはニュース記事が左から右に流れていく。
それは人やニュースが変わっても変わらない。

自らのルーチンがそれぞれにもたらすものが自らの人生を決めている。
誰の指図も受けてない。


なぜこのような描写を書きたくなったのかは第155回芥川賞受賞作である
コンビニ人間という本を読み終えた余韻が大きい。

コンビニにはさまざまな人が訪れ陳列棚に品物が並びアルバイトさんが丁寧なレジをする。
しかし訪れる人も変わり商品内容も変わり店員さんは移り変わっていくがそこには同じルーチンがあるという世界で一人長年オープン時から同じコンビニで時を過ごしてきた女性が主人公の本に刺激を与えて頂いたからに他ならない。

彼女はコンビニのルーチンで生きていけるが社交的なイレギュラーの人への対応が出来ない心を持つ。
それは彼女だけでない誰もが持つもの。
その描写を自分ながらに置き換えることで落とし込みしておきたいと思えたのだろう。

本の結末は読みながら各自で感じて欲しい。

私の造語に五感軸という生き方がある。
無機質な日常に人は五感のどこかを動かしている。
そうしていることに生きている意味があり価値がある。

読んでいただきたい一冊である。

 



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